身近にこんなひとはいませんか?
もしかしたらアスペルガー症候群や高機能自閉症なのかもしれません。
(もしかしたら、そうではなく、ほかの理由の可能性もあります。違っているとしても、何らかの役に立つ可能性はありますが…)
※ここでは、何個チェックがあれば自閉的傾向があるという訳ではありません。
□ 話がいきなり不自然に飛んだりちぐはぐで、会話が相互にスムーズにならない
□ 話が一方的でこっちの興味はおかまいなしに詳しくしゃべる
□ 同じことを何度もいう
□ 何でもないような質問に、うまく答えられなかったり、黙り込んでしまう
□ 文法や語の使い方が間違っていることがあるが本人は気付いていないようだ
□ 感情表現がとても少なく感じる。また他人の感情への反応が少ない
□ 逆に、よくわからないところで、かんしゃくを起こす
□ 昔のことでも、「○月○日に○○があった」と覚えていて驚かされる
□ 車のナンバー、誕生日、時刻表などの細かい情報やデータなど、数字や数量、文字などをとても細かく覚えている
□ 失礼だと思うような発言をストレートに言うことがあるが、悪気はないようだ
□ 口調が不自然な印象を受ける。やたら丁寧、格式ばっている、抑揚がない、変なアクセントがある、肝心なところを強調しないなど
□ 同年の子と比べて言動が幼い感じを受けることがある
□ 友達は少なく、一人でいることが多いみたい。ほかの人と一緒に何かをしようというのがあまりない
□ 手をひらひらさせてたり、ゆらゆら体を揺らしたりしているのを見かけることがある
□ 一日の計画が決まっていたり、毎日の決まり事があるようで、急遽予定が変わることをとても嫌がる
□ 比喩や、皮肉を字義通りに解釈してしまう
□ 子どもの頃2歳を過ぎても発語がほとんどなかった
□ 目線が合わなかったり、表情や身振りが有効な使われかたをしていない
□ 不器用さが目立つ。ボールの受け取りがうまくできない、歩き方がぎこちないなど
□ 特定のものへのこだわりが強い
□ 行動の順序をこだわり、その通りにいかないとやり直したり、怒ったりする
□ さわられるのが嫌みたい。小さい頃はお母さんに抱かれても安心しているようではなかった
□ 突然の音に過剰に反応する
□ 特定のものを見ることや音を聞くことに苦痛を感じているようだ
□ 逆にちょっとした痛みに鈍感だ
□ 偏食が強い
□ まじめだ。おちゃらけていない
□ 学校のテストは標準だ
(参考)アスペルガー症候群豪州版スケール
上を見てください。いくつか自分に当てはまると思うひとはけっこういると思います。たぶんそのうちほとんどの人は高機能自閉症でもアスペルガー症候群でもありません。診断できるのは医師のみです。しかも現時点では医師でも正確に診断できるひとは少ないといいます。もっといえば医師でさえ知識としてしか持っておらず、実際の診断は性格のせいだと言われたり、神経症だとか精神疾患だと誤診されたりすることもあります。臨床メインで学んでいるカウンセラーだと全く知らないひともいるでしょう。よく知らないまま決めつけては何の意味もありません。でも実際に、こういった困難がもとで周囲との違いに悩み、理解されずに苦しんでいるひとが少なからずいるのも確かです。
私はひどく孤独だった。そして次第に、孤独に苦しむようになっていった。一人でいることが辛かったわけではない。自分をみんなと比べるのが辛かった。そして、みんなと同じように、正常に、真っ当に、普通になりたいと思うのが辛かった。
(中略)
人々が実際に口にする言葉と、言わんとしているメッセージが違うなんて、私には思いもよらなかった。(中略)でも、何が悪かったのかはわからなくても、何かがおかしいことだけはわかった。会話がかみ合わなくなり、おかしな沈黙がたくさん割り込んできたことだけはわかった。
(ずっと「普通」になりたかった。 グニラ・ガーランド)
私は自分の感情がはっきりわからない。理解もできなければ、表現もなかなかできない。だからいつも、まわりの人たちに誤解されているという思い、なじめないという思いを味わってきた。(中略)
私はただ、まわりの世界がなかなか把握できないでいるだけなのだ。
(私の障害、私の個性。 ウェンディ・ローソン)
高機能広汎性発達障害(自閉症スペクトル障害・高機能自閉症、アスペルガー症候群)は、わかりにくい障害です。ただ、障害だということがわかりにくいのであって、「ちょっと変わってる」とは思われていることがよくあります。また、逆の立場からすれば「周りが変わっている」「生きにくい」「何かわからないけどうまくいかない」などと感じていることがよくあるようです。
自分の興味のあることを一方的に話し続ける、話がかみ合わない、独特な行動をする、変わった動きをする、特定のことに固執する…。その様子から、わがまま、利己的とか常識がないと言われたり、避けられたり、からかいの対象になることもあります。
あなたの身近で誰か浮かんできませんでしたか?
その中の何人かは、高機能広汎性発達障害の人かもしれません。(そして何人かは性格と呼べるものかもしれないし、自閉的傾向があるのかもしれません、そもそもどこまで区別できるものなのかが不明です)
高機能広汎性発達障害は原因がさっぱり分かっていませんでした。外見からは全くわからないので、親の育て方が悪いんだ!と周囲から責められることもあったようです。また親自身も自分や子どもを責めたりしました。今もかもしれません。それが専門家たちのあいだで広い意味での自閉症の一つのタイプだと知られるようになったのは、1980年代になってからです。それから20年経って、ようやく教育現場で考えられるようになってきたところです。
高機能広汎性発達障害ということばを耳にしたことはありますか?
なんだいそれ?と思った人たくさんいると思います。
ちなみに、ある友達が笑い話で言ってましたが、こうぼんせい、じゃないですよ!こうはんせい、です。
行きわたる範囲が広いという意味です。
では自閉症はどうでしょうか?きっとどこかで聞いたことがある人がほとんどだと思います。それでは高機能自閉症はどうですか?高機能というからには機能が高い?何の機能が高いんだぁ?そんな感じかもしれませんね。では自閉症って何なのか自分のいま持ってるイメージでいいので想像してみてください。
聞いたことあるよ!自閉って呼び方からすると自分の殻に閉じこもってるイメージするんだけど…自閉症ってひきこもりのこと?!
確かに、自閉的傾向のある人の中にはひきこもってる人もいるので無関係ではないと思います。でも自閉症とひきこもりは違います。僕が教育や障害児教育関係以外の友達に訊いてみると、いつも決まって上の答えが返ってきます。だぶん、おそらくほとんどのひとが、いまだに自閉症=ひきこもって部屋から出てこないひとのことで、そのひきこもる理由は人に会うのがいやだから、怖いからだと思っているのではないでしょうか。ここで養護学校の小学部に通っている自閉症の子たちの例をいくつかあげてみます。
・気分がいいときは「うー」とか「あだだだだだ」と声を出しますが、意思伝達としての言葉はありません。
・こちらが言ったことをそのまま言い返すことがあります。たとえば、「ゆうきくんは元気でしたか?」と聞くと「ゆうきくんはげんきでしたか?」と言い返すなど(オウムがえしと呼ばれています)
・何か言っている中に前ぶれなくCMのフレーズや、アニメのキャラクターのセリフなどをいきなり言う子もいます
・人の手をとり指さしがわりにすることがあります(クレーン現象と呼ばれています)
・挨拶ができる子もいます。「おはようございます」と声をかけると「お・あ・よ・う・お・あ・い・ま・す」と一文字ずつ区切るように返してくれます。
・同じことを繰り返しするのが好きです。ビデオでは気に入った30秒くらいの場面を10回でも20回でも巻き戻して見ています
・中にはビデオでひたすら早送りの画面を見ている子もいます
・流しに水をためて、水を手ですくっては落とす遊びが大好きで30分以上やっている子もいます
・こちらの言葉はほとんど理解できないので、場所を移動しないといけないときなどはパニックになることもあります。目からの情報の方が比較的理解しやすいので、次の場所の写真を見せると切り替えができやすくなります
・バスが大好きで、バスのナンバープレートから外側の広告に描いてある電話番号まで覚えていて、事細かな絵を描きます
(最近では、自閉症であるひとの言語に関しては、早期の療育によりかなり発達するという意見もあります)
自閉症とひきこもりは違うことが分かると思います。この子どもたちは知的な障害がともなっていて、典型的な自閉症の子どもです。最初の論文の報告者の名前からカナー型の自閉症と呼ばれています(今から約60年前のことです)。今では、自閉症は、先天的な脳の器質的な障害だといわれています。
脳の病気?治るの?先天的ってなに?
病気ではありません。病気と障害は違います。たとえば、目だと結膜炎とか白内障とかは病気ですが、目が見えないというのは目の障害があるということになります。…明確な区別は難しいですね。でも大事な問題だと思います。自閉症である子どもは成人になると自閉性の障害がある成人になります。先天的=生まれながらということです。
ということは遺伝?
今のところはっきりとは分かっていませんが、遺伝性がある可能性はあります。自閉症である子がいる家系をみてみると、親や、兄弟に自閉傾向があることがよくあるようです。高機能自閉症のお子さんを持った親が相談に訪れて初めて、自閉症というものを知ってその特徴を聞いたとき、それは自分にも当てはまる…と気付く人もいるそうです。でも必ずしも遺伝とはいい切れません。自閉的な傾向があったとしても環境が影響しているのかもしれません。また、まったく遺伝は認められないこともあります。「遺伝性がある」というと、「100%同じように遺伝する」と思われがちですが、これは大きな間違いです。たとえば、優性遺伝、劣勢遺伝という言葉を聞いたことがあると思います。染色体の部分によって、100%遺伝するものとそうでないものがあります。自閉症に関しては、おそらく遺伝性はある程度あり、遺伝によらないものもあるのだと思われます。たとえば、一卵性双生児のうち片方が高機能広汎性発達障害だった場合、もう一人の子をみるといった研究がされているのだと思います。
「残念なことに、子どもにアスペルガー症候群を認めると、自分たちにもそれがあることを受け入れねばならないので、認めたがらない親御さんもいます。そうなると、子どもが周囲の理解やサービスを受けられる道は閉ざされてしまいます。親や近親者にこの特徴が見られる場合には、それは子どもにとって明らかな利益と考えることが大切で、親族や子ども自身も、それを恥じたり困惑すべきではありません。それどころか、この症候群には、多くの有望な特質が伴うことがあるのです(「ガイドブック アスペルガー症候群」より引用)」
また、先天的=遺伝というのは、語弊があります。これも一部は合っていることなので、よく間違えます。でも忘れてはいけない大事なことです。先天的とは…生まれてくるまでにすでにあるということです。だから、
1. 遺伝…純粋にDNAの結果
2. 胎生期/妊娠中…受精してから胎児になる発生のあいだ/お母さんのお腹にいるあいだ
3. 出産時…お母さんの体から、生まれてくるとき
の3つがあります。つまり、生まれて産声を上げるまでを全部指します。母親の栄養状態や、病気、精神状態などは胎児に大きな影響を与えるとよく言われます。胎内の環境が異なると、遺伝子(DNA)からの発現すら異なってきます。ちょっと話はそれますが、今話題のクローン人間が生まれたとしても、生まれた後の環境(=後天的なもの)を全く同じにしても、元の人と全く同じ人にはならないと言われています。
自閉的傾向と自閉症は違うの?そもそも高機能自閉症と呼ばれるものと自閉症は違うものなんじゃないでしょうか?
人は自閉と非自閉と二分できるものではないです。自閉症でないひとにもいろんな人がいるように、自閉症のひとも障害の程度はさまざまではっきりと境界線を付けることはできません。先程のカナー型の自閉症である子は明らかな知的障害があり自閉症だとわかりますが、知的障害が軽度の自閉症の人もいます。そしてここ20年で知的障害が特にない自閉症のタイプがあって、実は知的障害を伴う自閉症の人以上にいることが分かってきました。この知的障害がない、もしくはある一定以上の人は高機能自閉症とかアスペルガー症候群とか診断されます。これらの症状には、
1.社会性の障害、
2.コミュニケーションの障害、
3.想像力の障害
の大きく3つの共通する特徴があります。これらの傾向があるけど自閉症ではない人が自閉的傾向があるということになりますが、とてもあいまいです。
確かに高機能自閉症である人と自閉症(カナー型)である人では実際に見ると全然違います。それは知的障害、言語障害があるかないかで言動が他人から見てわかるレベルで異なるからです。でも根底となる原因は同じであることが重要になります。
じゃあアスペルガー症候群と高機能自閉症はどう違うの?
これは意見が分かれています。専門家によって、アスペルガー症候群と高機能自閉症を分けて考えているひともいますし、アスペルガー症候群を高機能自閉症に含めて考えるというひともいます。一般的通念には、比較的社会適応に難が少なく、知能が全く正常なのがアスペルガー症候群で、知能が正常範囲であるが少し低く、より社会適応への難があるのが高機能自閉症だというのがありますが、この二つを合わせて、高機能広汎性発達障害とよぶ専門家もいます。アスペルガー症候群も高機能自閉症も自閉症も一つの連続体であると考えられており、自閉症スペクトルという呼び方をする専門家もいます。診断名がなんで必要か、という話と繋がってくるのでそこらはまた後に回します。
特徴をもっとかんたんにいって。
脳の機能的障害によって、見る、聴く、さわる、嗅ぐ、といった知覚を理解することの障害、あるいは周囲のできごとを見たり、聞いたりして、そのできごとの意味を知る機能(認知といわれる心の働き)の障害によって、精神機能の発達に遅れやかたよりが起こると言われています。
具体的には…
1.社会性の障害…他者との双方向の交流がスムーズにいかない
2.コミュニケーションの障害…ことば(言語性)と身振りや視線、表情など(非言語性)がうまくいかない
3.想像力の障害…ものごとを結びつけることが難しい。こだわり行動があり、変化をとても嫌う
といったことが挙げられます。しかし認知のどの部分にどの程度障害があるかは人それぞれですから、あらわれる状態もさまざまです。発達のかたよりと書きましたが、ここが重要です。
・・・あの、私の夫はアスペルガー症候群なのかもしれません。
僕はアスペな気がします。
それは今ここではわかりません。いま、日常生活やコミュニケーションで困難がありますか?なければ考える必要はないと思います。最近は高機能自閉症・アスペルガー症候群であるひとたちが書いた本を読んだことがきっかけで、自ら診断に行くひともいます。その場合は信頼のできる医師や発達の専門家、もしくは発達について学んでいるカウンセラーなどを探す必要があります。そのことについては僕の分かる範囲で後ほど書きます。上に紹介したグニラ・ガーランドさんも図書館で自閉症関連の本を読んだとき、初めて『そこに私がいる』と思ったそうです。そして自分が何なのかが分かり、かえって安らぎを覚えた、と自伝の中で述べています。
いろいろ言葉が出てきて頭が混乱してきました。
僕もです。これから順を追ってみていきたいと思います。
自閉症を考えるとき、障害、健常と分けるのではなく、自閉性という見方ができると思います。自閉性というのはヒトのもつ、他者認識にかかわる一つの尺度だと考えています。自閉性が強いひとから弱いひとまでいて連続しているという見方です。もっと神経生物学的に脳を解析できるようになれば、その連続性がより明らかになると思います。
でも 、一方で、自閉というものを障害として捉えないといけないとも思います。もし年月によって自然に発達したり、トレーニングや学習によってスキルとして獲得できるのであればこれは障害ではありません。ですが、自閉症の子どもは自閉症の大人になります。高機能広汎性発達障害の子どもは、高機能広汎性発達障害である大人になります。脳のある部分の機能状態にある程度違いがあることが傷口がなくなるように治るわけではないのです。
高機能自閉症、アスペルガー症候群、ADHDやLDといった軽度発達障害と呼ばれる困難をもつひとたちは、社会性、感覚、認知の発達などが少し異なる道筋をたどり、社会に適応するなかで、さまざまな困難に直面し悩み怖れ傷ついて、自己肯定できずにいるひとたちがいます。軽度発達障害であるかないかに関わらず、大部分の苦しみや痛みは他者との関わりの中で生じます。関わりの中で、その特性を理解しようとするだけで、まるで変わっていくはずです。そのために何ができるのかを考えていきたいと思います。
また、実際にコミュニケーションに悩んでいる人や、身近にそういった人がいて何か自分はできないかと考えている人もいると思います。僕の知っている範囲で相談場所を紹介します。そして、各地方には、自閉症協会とか、アスペの会など他にも小さな活動グループがあります。そういった場の紹介もしたいと思います。理解される場所こそ、その人にとっての居場所ですから。
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